
2.旧JR三江線
廃線から5年を迎えた3月末、島根県川本町の旧JR三江線石見川本駅の構内に歓声が響いた。エンジンやペダルで走る「レールバイク」の乗車会だ。
「廃線前に多くの人が来てくれた。廃線後も何か挑戦してみたかった」と話すのは、乗車会を主催する町観光協会の大久保一則さん(36)。三江線の現役時代は同駅でお昼時に待ち時間があり、毎日飲食店を案内した。廃線の1年半前に帰郷し、同協会職員になった大久保さんは、連日満員の状況に「こんなに鉄道ファンがいるのか」と驚き、資源としての鉄道の可能性に気付かされた。
廃線前に仲間と作った手ぬぐいの販売収益でレールバイクを購入した。いざ走らせるとなると、安全対策、人員確保、PRなど課題はあるが、それでも続けていると地元の高校生が手伝ってくれるようになった。家族連れに交じり、かつて三江線を利用したという人たちが訪れ、駅はにぎわいを取り戻す。
ここには受け継いできた記憶がある。1896年に政府が全国の鉄道の可能性を調べた記録には「広島―八木―三次―川本―江津」を結ぶ構想が記されている。翌年、邑智郡の政治家が、江の川の舟運に代わり「木材や木炭を鉄道で運びたい」と島根県議会に陳情。「陰陽連絡」の夢を膨らませた。結局、全線開通は80年後の1975年。過疎は進み、描いた夢は廃線でついえたかに見えた。
廃線後、邑南町の旧宇都井、口羽駅で江の川鉄道がトロッコを走らせ、美郷町ではトンネルを活用したワイン貯蔵庫構想の準備が進む。「何もしなければ廃れるだけ。新しいことを生み出していきたい」と大久保さん。3月でレールバイクの乗客は2千人を超えた。鉄道を願い、利用し、見送った幾多の人々の記憶を宿すレールの上を、地域の夢をのせて走る。
写真1:青空の下でレールバイクを楽しむ家族連れ(旧石見川本駅)
写真2:江の川に架かる高さ20メートルの第3江川橋梁(きょうりょう)を渡るトロッコ=邑南町
江の川鐵道公式サイト https://gounokawa.com/


- もりた・いっぺい
- 1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。