
4.おおち山くじら
イノシシ肉のブランド化に町ぐるみで取り組む島根県美郷町で、肉の製造や加工品づくりを担う中核的存在が、2017年に設立された「株式会社おおち山くじら」だ。
代表の森田朱音さん(40)は、14年に美郷町にIターン。九州のマーケティング会社に就職し、特産品開発の支援業務に携わったが、「自分がやっているのは虚業ではないか」という仕事への疑問から、ジビエに関心を持った。
同町では1990年代、イノシシ駆除の補助金の不正受給が発覚したのを契機に、役場と住民が対話しながら対策を強化。2004年に捕獲から解体処理まで行う「おおち山くじら生産者組合」を設立し、特産化に着手した。ただ加工作業は専業ではなく、担い手を探していた。
14年に地域おこし協力隊として着任した森田さんは任期終了後、生産者組合から加工事業を継承し、会社を設立。イノシシの皮を加工して財布などを作っていた女性グループとも協力体制を構築。高齢化が進む農家の負担を軽くしようと、イノシシを現場まで引き取りに行き、加工、販売まで一貫して行う。昨年は700頭が捕獲され、良質な400頭を加工、販売した。
歩みは決して順調ではなかった。18年の西日本豪雨で解体施設が被災。再起を誓い挑んだクラウドファンディングで全国から支援を集め、加工場を別の場所に再建した。精肉のほか、缶詰やレトルト食品など次々に開発し、事業は軌道に乗った。
ところが、今春、町内で発見された個体から豚熱が検出され、生産量が減少。被災以上の危機に諦めかけた森田さんだが、イノシシ以外の加工にも活路を求め、再起を誓う。「私を地域の一員として受け入れてもらったことが一番うれしい」と森田さん。住民と一緒に切り開いてきた挑戦を諦めるわけにはいかない。
写真1:イノシシ肉の処理は丁寧に筋を取り除くなど細かい手作業が求められる
写真2:イノシシ肉を使った加工品を持つ森田さん


- もりた・いっぺい
- 1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。