
5.志都の岩屋
広島県境に近い島根県邑南町岩屋の山中にある県の天然記念物・名勝「志都(しづ)の岩屋」は、弥山の南斜面に突き出した巨岩や奇岩の宝庫だ。てんぐのように絶妙なバランスで別の岩に乗っている「天狗(てんぐ)岩」、二つの岩が並んで跳んでみたくなる「飛び岩」、修験道の僧たちが修行をしたと伝えられる「行場(ぎょうば)岩」など、命名の由来を考えながら山登りするのも楽しい。
万葉集には「大汝少彦名(おおなむちすくなひこな)のいましけむ志都の岩屋は幾世経にけむ」(万葉集巻三)と詠まれた。国造り神話に登場する大国主命(おおくにぬしのみこと)と少彦名命の2神が滞在した志都の岩屋は、どれだけの時を経たのだろう、という意味だ。
志都の岩屋にまつわる伝承は各地にあり、場所は特定されていないが、地元では大国主命が石見の地にやって来て国造りを思案したと伝わる。麓に近い「鏡岩」は、志都岩屋神社のご神体と位置付けられ、長い年月をかけて岩の表面にうがたれた小さな穴にこよりを通すと縁が結ばれ、岩の近くから湧き出る「薬清水」は病気が治る、と言い伝えられる。
岩は火山活動によって固まった黒雲母花こう岩。長い年月を経て、周囲の土砂が流され、岩が露出。岩自体も風雨にさらされて硬い部分だけが残り、丸みを帯びる。岩をじっくり見つめていると万葉集に歌われた悠久の時を感じる。
草刈りなど保存活動に取り組む日高学さん(74)が「子どもの頃は石の上から跳んだり、くぐったりして、自然の遊び場だった」と話すように、岩屋の住民たちの心のよりどころだ。
邑智郡内では、川本町の市街地から江の川の対岸の山に突き出た「米くい岩」、美郷町都賀本郷の江の川にある「鯨石」など、人々は石を地域のシンボルとして身近に感じ、時には祈り、時には畏れながら暮らしている。そう、ここは石見の国。石を見る旅に出かけてみませんか。
写真1:弥山の南斜面には「行場岩」などの巨岩が連なる
写真2:川本町谷戸の山肌に露出した米くい岩
写真3:江の川に鎮座する鯨石



- もりた・いっぺい
- 1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。